くにたちまち歩きワークショップ レポート

ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)によるアートプロジェクトのラーニングプログラムの一環として、国立市への知見を広め、活動の可能性を探る「くにたちまち歩きワークショップ」を2日間にわたって開催しました。
今回は、運営としてワークショップに参加した3名にそれぞれの視点でレポートを書いていただきました。

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レポート01|発見と出会い、冒険のようなまち歩き (くにたち郷土文化館 安齋順子)
|まち歩きワークショップの流れ
2日間のワークショップで、1日目はくにたちの南武線以北を歩き、2日目は南部地域を散策しました。参加者は、ランダムにチームを組むと、チームで行先を決め、歩くペースもそれぞれという能動的なスタイルで、ACKTからは見どころとなるポイントを入れたMAPと解説シートが提供されます。今回、くにたち郷土文化館からナビゲーターとしてお手伝いに来た私は、いくつかのポイントとなる場所で参加者に解説を行いました。参加者は、道中気になったものや、良いと感じたものをインスタントカメラで3枚程度撮影して、まち歩き終了後の振り返りの時間に、その写真について発表してもらうというのが全体の流れです。

|Day① 1月27日(土)くにたちの南武線以北を歩く
関民帽子アトリエでお話を伺う様子

開催初日。旧国立駅舎に参加者が集まるとACKTメンバーより趣旨や注意点の説明などが行われました。私からは、この日のまち歩きのポイントにもなる大正終わりに始まった国立大学町の開発の歴史について説明しました。その後、この国立大学町開発とほぼ同時期に建てられた国分寺崖線上の別荘、沖本邸(カフェ沖本)へ。カフェの店長久保さんに沖本邸の歴史や保存の経緯など丁寧に説明いただいた後、ここからは2グループに分かれて散策です。

一方のチームは富士見通りへ向かうと、参加者の一人は、以前は良く見えたはずの富士山が通り沿いに新たに建物が建ったため少し見えづらくなっていることに気が付き、インスタントカメラでこの様子を記録に留めていました。その後、まちの文化を彩る関民帽子店(せきたみぼうしてん)や頑亭文庫(がんていぶんこ)なども訪問しました。実際に歩いたところを地図に書き起こす

そして、一橋大学構内に来ていたもう一方のグループに合流すると、こちらのグループは歴史を称える兼松講堂などの校舎に囲まれた空間の中にある彫像に注目しながら散策をしていました。
さくら通りでは、両グループがさくら通りに展示されている「くにたちアートビエンナーレ」の彫刻作品について、芸術小ホールの竹内さんから説明を受け、最後は谷保駅南にある「さえき洋品●(てん)」に向かい、各グループの個々に撮影したポラロイド写真を見せ合いながら振り返りを行いました。

|Day② 2月10日(土)くにたちの南部地域を歩く
2日目は、谷保駅南側の「さえき洋品●」からのスタート。私からは、はじめに見どころとなる南部地域の歴史や、農の風景について解説を行いました。全員で谷保天満宮まで一緒に行くと、丁度、梅林の梅が綺麗な花を咲かせていました。ここでまた2グループに分かれて出発です。用水で少年とカードを拾う様子

Day1と比べて「南部の方が人とコミュニケーションをとることが多かった」と参加者から感想が出ていたくにたちの南部地域。グループごとに面白い出会いもありました。
用水で川に沈んでいるカードを拾う少年と出会ったり、屋敷稲荷の前で「初午(はつうま)」の準備をする地元の方からお話を聞いたり、滝乃川学園で庭作りを行っている、ガーデンプロジェクトの皆さんから活動の様子を伺うこともできました。

Day2は、両グループのルートはたまたま同じような線を描き、稲作の季節には天満宮南の田んぼを潤している用水、城山、国立市古民家、滝乃川学園、ママ下湧水、矢川と用水の水が合流する「おんだし」など、くにたち南部の水と緑豊かな情景と、今変わろうとする景色を目にしつつゴールのくにたち郷土文化館へ向かいました。

|出会いと再発見
今回の歩いた道は、初めて訪れる「くにたち」であったり、普段から知っている「くにたち」の景色であったり、参加者によってそれぞれ違うものであったと思います。たとえ普段から知っている「くにたち」の景色であっても、1日あたり4~5時間かけてゆったり歩き、グループを組んだ他の人の感性にも触れながら歩くことで、普段から知っている「くにたち」の中に、多くの新しい「くにたち」との出会いや再発見があったのではないでしょうか。
まちを知ることは、まちを愛することでもあると思います。
きっと今回参加された皆さんは、この企画に参加する前より少しだけくにたちの事が好きになったのではないでしょうか。

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レポート02|まち歩きを終えて (くにたち芸術小ホール 竹内恵美子)
1月27日、集合場所の旧国立駅舎からカフェおきもとへ。線路脇の道をとおり、お庭も散策しつつ旧沖本家住宅を見学。オーナーの久保さんから、保全前の沖本住宅のお話や沖本家の人々のお話、洋館・和館を見学させていただきながら、通常では聞けない貴重なお話を伺いました。

カフェおきもとを出てグループを分け、事務局のスタッフを含めそれぞれのまち歩きがスタート。国分寺崖線から見える景色を楽しみつつ、應善寺を訪問。見学の予約をしたあとに、近くの古美術国立堂にも立ち寄りました。應善寺は浄土真宗本願寺派の寺院で隣に幼稚園を併設した地域の寺院。歴史ある建築、繊細な装飾が施された静謐な空間が広がっていました。一橋大学構内を歩く

次に向かったのは一橋大学、以前は複数の入り口が解放されていたのですが、コロナ禍を経て、今は正門からの出入りのみとなっていました。西キャンパスの水辺近くの大木が、国分寺崖線から見えた木ではないかとの考察をしたり、それぞれの建物の建てられた年代が異なる様子などを確認しながら回りました。続いての東キャンパスでは兼松講堂近くの銅像に注目。村瀬春雄先生の胸像をはじめとして、矢野二郎先生の立像の大きさ、制作者や作成時期、像の目線の意味などにも思いを馳せつつ見渡すと、さらに立派な佐野善作先生の立像がありました。ひっそりと置かれていた関先生の彫刻なども鑑賞しつつ、大学を後にしました。
大学通りをあるき、学園通りとの交差点にあるカフェで昼食をとったあと、さくら通りの野外彫刻の元へ。別チームと合流して、設置された経緯や説明を簡単に受け、立ち並ぶ作品を間近で楽しみながら谷保の拠点「さえき洋品●」へ。撮影した写真を見ながら1日を振り返る

さえき洋品●では、途中で撮影したポラロイド写真を見ながら、今日一日を振り返りました。ひとりではなかなか訪れないスポットに行き、参加者同士お話しながら建物や彫刻、何気ない植物や景色を楽しみながらゆったりと歩くことができ、日常の中の非日常を体験した一日になったのではないかと思います。

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レポート03|まわりみち よりみち あぜみち みちのみち (国立市教育委員会生涯学習課 土方智紀)
月日は百代の過客にして行かう年も又旅人也。中学校の国語の授業で松尾芭蕉の「おくのほそ道」の序文を暗唱したことがある。月日は確実に過ぎていく、あの頃から早30年、当時も見ていたまちを改めて巡ってみると、はたして多くの気づきを得られることができた。
国立エリアの一橋大学は兼松講堂などの建造物が有名だが、実は銅像などが敷地内に点在していることを知った。キャンパスのあちこちに矢野二郎先生像、村瀬春雄先生像などの像があり、どのような経緯で像が設置されたのかを確認していくだけでも、大学の歴史を学ぶことができる。

谷保エリアの円成院跡には小さな稲荷が祀られており、ちょうど初午の準備をされていたご当主から、かつては防空壕があったが今は崩れてしまったこと、この辺りは水がよく出る場所であること、のぼり旗の書は本田家で教わったことなど、様々な話を聞くことができた。
「初午」の話を伺う様子

今回はグループ行動だったので、同行者がいることで自分とは違う目線でまちを歩くことができた。
国立エリアでは、「一人だと入れないから今回ぜひ行きたい」ということで商店街の古美術店にお邪魔した。個店でしかも古美術店ということで、敷居が高いのではないかと思っていたが、快く見学を受け入れていただき、最近は古美術品の販売形態が変わってきていることなどを教えていただいた。

谷保エリアでは、「流れがきれい」という声があり、脇の用水路をのぞいてみると日差しと水流の関係で不思議な形をした模様を水の中に見つけることができた。
このほかにも、応善寺のご本尊を拝んだ後の5分ほどの静かな時間、市内で採られたはちみつの味など、五感を十分に楽しめることができた2日間のまち歩きだった。

Text : Ryo Ando , Noriko ANZAI , Tomonori HIJIKATA , Emiko TAKEUCHI
Photo : Kensuke KATO